ルイズ72
今まで黙っていた幸一が身振り手振りを交えて切り出す。
「あ、相手はヤクザですよ? 銃だって持っているし、数だって多いし、何より」
そこで幸一は自分の体調の異変に気付いた。足元がよろめく。視界が、グラグラと揺れている。突然の乱調にジェスが慌てて高位置を支え、フランクとロザリアも駆け寄る。
マナだけが、申し訳なさそうに幸一を見つめていた。
「マナ、さん……一体、何を……!」
「ごめん……ロザリアちゃん、ちょっとだけ幸一君を眠らせて」
ロザリアは苦しそうな幸一とマナの哀しげな顔を見比べ……結局、マナに従った。自らの体内からクロロホルムを分泌させ、手元に汗をかく要領でごく少量発生させた。その手はヘビのような緑色に染まっている。そしてそれを、幸一の口元に持っていく。
「リ、リア……やめて……くれ」
自力での歩行も困難な幸一に、ロザリアの手を払いのける事は出来なかった。あっさりとその背が力を失い、折れ曲がる。フランクがその身体を背負う。
「……って事は、やんのか、マナ?」
「うん。この人を捕まえても、きっと他のヤクザを使ってくるだろうし……日が経てば経つほど、犠牲者が増える」
俯くマナに、ジェスは手を彼女の肩に置く。
「木一君は、置いていくのだね?」
「はい……やっぱり、危険ですから。それと、ロザリアちゃんも残って」
「え? 私は残るんですか?! 私は足手まといだと言いたいんですか?」
自分が残されるとは考えてもいなかったのだろう、ロザリアは素っ頓狂な声をあげる。
これにはジェスが首を左右に振った。
「違う。彼等の目的は、僕達への復讐なんだ。ならば、人間の木一君は絶好の標的。そんな彼を君が守らず、誰が守る? 万に一つという事もあるだろう?」
持ち上げるジェスの口上に、ロザリアはご機嫌に応えた。
「そ、そうかあ、それじゃあしょうがないなぁ!」
夜空に浮かぶ三日月を見上げ、純白の吸血鬼は怒りと不安に端正な顔を曇らせていた