ゲイズ83
ジェスの鋭敏な視力は事態の全てを悟った。彼等は足を弾丸によって撃ち抜かれている。恐ろしい事に、両膝の皿の部分のみ。とんでもなく正確な銃撃、それを行なった人物が誰なのか確認する事も出来ないままジェスは何者かに抱えあげられ……彼を見上げた。
ジェスが倉庫に侵入する際に倒した組員から奪い取ったのか、右手に持ったべレッタは飢えた獣のように白煙を上げている。火薬の香りだけが、ジェス自身の血生臭さを打ち消していた。
それはジェスの知人。ただ、右目と違い、左目の色だけが青いのと、彼がまとう透徹とした雰囲気が別人のように思わせる。だが、その顔は間違いなく幸一のもの。
恐怖の為か……歯根が、ガチガチと噛み合っていなかった。幸一は歯根の震えを押し殺すように固く口を閉じる。
「き、木一君?! き、君が何故?!」
答える間もなく幸一は右手に持ったべレッタを、外で待機していたのであろう組員に向ける。彼等が引き金を引くよりも、三つの轟音が幸一の手元で鳴る方が早い。彼等は三人とも銃を握っていた右手を打ち抜かれ、その場に膝を突いている。
「待ってくれ! 中には、まだマナとフランクがいるんだ!」
「え?」
その言葉は予期していなかったか、幸一は走りながらも一瞬呆けた顔をし、倉庫に眼をやる。
倉庫からは二十人を超える組員がこちらに押し寄せてくる。
周りからも、三人一組で組員が襲い掛かってくる。幸一は相手も見ずにべレッタの引き金を引く。何故かその射線上には決まって敵がおり、膝の皿か銃を持っている利き腕だけを正確無比に打ち抜いていく。カラになったべレッタを投げ捨てると、ズボンに挟んで置いた二つの拳銃の内、一つを手に取る。と同時に銃撃。
「……ダメです。この状況じゃ、助けられない」
幸一は唇を噛み締め、密林の斜面を下る。ジェスを抱えながら十分も走り通すと、やや広い平地に出た。信じられない事に、彼の息は全く乱れていない。どんな鍛え方をしているのか。
彼が乗ってきたのであろう、とめてあった大型バイクに跨ると幸一はキーを差込み、ヘルメットを被りつつフットギアを蹴る。エンジンが始動し、ややすす黒いガスがマフラーから排出された。
「しっかり捕まってて下さい!」
ジェスが幸一の腰に手を回すたのを確認すると、アクセルグリップを絞り一気に加速。
……月は依然、暗雲に閉ざされたまま。