レースカーテン

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デイズ88

デイズ88

『そう言えば、言い忘れていた事がありました。彼女と貴方の間には特殊な強化ガラスで仕切られていましてね。普通の拳銃ではもちろん、貴方の愛銃である世界最大の戦闘拳銃―ジェリコM13?ディエス・イレ?であろうとも、破壊は不可能ですよ』

涼やかな声に幸一は手の中のべレッタとガラスを見比べ、呻く。

『それと、逃亡を試みたり、これ以上の破壊行為に及んだ場合には、お二人に大変不幸な事が起こるかもしれません。では、準備が整うまで最後の逢瀬をお楽しみ下さい、『プレディクト』』

 スピーカーがブツンと音を立てると、マナはもの問いたげに赤い眼差しを向けた。

「幸一君……どうして、そんな物騒な物、持っているの? それに、『プレディクト』って、何?」

 幸一はM13を袖の中に戻すと、俯いたままその場に座り込んだ。

「……昔、一人の男の子がいました。彼にはちょっとした、不思議な力がありました」

 抑揚に欠けた物言いに、マナは言い知れぬ不安を覚える。

「その力を、遺伝子操作兵への転用が出来ないものかと、とある国の政府は非常に欲していました。人体実験の材料として……男の子は、自分に命の危機が迫っている事も気付かずに、唯一の肉親であった姉に手を引かれ、父の知人が待つスイスに逃亡しました」

 その両肩が、震えていた。

「男の子の姉は……遺伝子操作兵、吸血鬼でした。男の子を狙う政府の人間から、彼女は全身全霊を懸けて弟を守り通しました」

 普段はどもる事の多い彼にしては、珍しくつっかえることが無い。だが……ひどく、それは聞くに堪えない声だった。

「父の知人の元に辿り着く寸前で……政府からの追手が迫りました。いつになく激しく、粘り強い攻撃に彼女は、重傷を負いながらも彼等を撃退しました……血の海が広がった、凄惨な光景でした」

 幸一は、懺悔するように天を仰いだ。

「その一部始終を見た男の子は恐怖し、悲鳴をあげました……命懸けで守ってくれた唯一の肉親に……彼は、悲鳴をあげたんです」

 ギリッと、歯列がずれた音がガラス越しに聞こえた。

「……父の知人に彼を預けた後、姉の消息は途絶えました。自ら、行方をくらませたんです」

 上を向いたその頬から、何かが落ちる。

「弟は……強くなろうと思いました。強くなれば、姉を恐れる事もなくなると考えたんです。探して、また一緒に暮らせると……幼い彼は単純にそう考え、知人の擁護のもと、遺伝子操作兵の逮捕及び捕縛を行なう、スイスの特殊な警察に入りました。彼はそこで『プレディクト』と呼ばれる事になります」

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